SuggescoMagazine 第 86 号 P.01
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1枚ずつは合格していたのに、通しで見たら壊れていた。AIに丸投げした動画で見落とした4か所

8分26秒の動画を1本作りました。素材は1枚ずつ検品して全部通していたのに、通しで見たら4か所が…

動画を1本作るとき、手を動かす工程はほとんどAIに丸投げしています。絵も、ナレーションの声も、字幕の描画も、私は指示を出しているだけです。ここに書くのは、2026年8月に自分で仕上げた8分26秒の動画1本ぶんの記録で、AI動画の作り方一般の話ではありません。素材の画像は1枚ずつ開いて検品して、全部通していました。それでも、書き出したものを通しで見たら壊れていました。しかも壊れ方が4つとも違いました。1つずつ、どこで見つかったかまで書きます。

この記事に出てくる動画

AIに全部任せたら、質が落ちた(8分26秒)ここで壊れていたと書いている、その動画そのものです。話している中身は、1体に抱えさせると出力が濁るということです。

目次

1枚ずつ合格していたのに、6枚並べたら同じマークが入っていた

作ったのは、静止画を並べて話を進める形の動画です。動かすカットは数本に絞って、残りは1枚絵で持たせています。全編を動かす組み方を選ばなかった理由はAI動画生成に実際いくらかかるのかを型ごとに並べた記事に書きました。最初の事故は、そこで用意した静止画で起きています。

参照画像から「場面」ではなく「マークそのもの」が転写された

絵柄を揃えるために、生成のたびに参照画像を1枚添えています。線の太さ、影の付け方、紙の色。文章で書くより、見本を1枚渡したほうが早いからです。今回使い回したのは前の回で通った1枚で、抽象的なカット用に用意したものでした。ところが、その見本自体が「横棒が何本も並んだだけの絵」でした。

プロンプトには、参照画像の場面や背景は写さないでほしい、という意味の英語を添えていました。前の回から、そのまま持ってきた一文です。今回は止まりませんでした。場面を持たない絵に、場面を写すなという言葉は当たりませんでした。横棒の羅列は場面でも背景でもなく模様なので、禁じた対象から外れていたことになります。

結果として、内容の関係ない6枚に、同じ横棒のマークが描き足されていました。指示していないものが、指示していない場所に入っていた形です。

なぜ気づかなかったか ── 1枚ずつ見ている限り違和感がなかった

私は生成のたびに1枚ずつ開いて等倍まで拡大して見ています。マークが入った6枚も、その検品を全部通っていました。単体で開くと、紙の隅に細い線が数本入っているだけで、絵として破綻していないからです。手描き風の絵なので、線が数本多いことが不自然にも見えません。

「変だ」と判断する手がかりが、1枚の中に無かった状態です。1枚で完結している粗なら拡大すれば出てきますが、今回のものは1枚では完結していませんでした。

見つけたのはコンタクトシート(一覧)だった

気づいたのは、全カットを1枚の大きな画像に並べたときでした。素材を格子状に並べて1枚の一覧にしたものを、コンタクトシートと呼びます。並べた瞬間、話のつながっていない6枚だけに同じ形が入っているのが見えました。1枚ずつ見ているあいだは全部合格で、並べたときだけ壊れて見えました。

1枚の中を等倍で見る検品のやり方はAI画像生成のコツ。プロンプトの書き方と、生成した画像の確認のしかたにまとめてあります。あちらが1枚の中の粗を見つける話で、いま書いているのが枚と枚のあいだに出る粗の話です。単位が違うので、両方やらないと片方が素通りします。画像のモデルの単価そのものは、記事のカバー画像を1枚0.12クレジットで作っている話に分けて書きました。今朝あがったばかりの1本です。

渡した参照画像1枚から、頼んでいない要素まで運ばれていた

場面アンカーの場面が、背景に丸ごと写り込んだ

同じ回で、もう1つ別の事故が起きています。場面のあるカット用には、別の参照画像を渡していました。夜の机を描いた1枚です。すると、机とはまったく関係のないカットの背景に、その夜の机がそのまま写り込みました。前の回でも同じことが起きていて、今回で2回目です。

マークの転写とは症状が逆に見えます。片方は模様だけ、もう片方は場面が丸ごと持ち込まれました。それでも起きていることは同じで、渡した1枚から、頼んでいない要素が運ばれています。

「真似ないで」と書いても、真似る対象が絵の側にあるうちは止まらなかった

参照画像には、真似てほしい部分と真似てほしくない部分が同居しています。線の太さや紙の色は真似てほしい。描かれている物や配置は真似てほしくない。渡せるのは1枚の絵なので、2つを分けて渡す方法がありません。文章で「こちらだけ真似てください」と書き添えても、絵の側に対象が残っている限り、混ざる余地は残ったままでした。

この記事に書かないこと

転写を止めるために実際に書いているプロンプトの文言は、この記事では扱いません。近日中に別の記事にまとめて、公開後にここへリンクを追記します。いま読んでいただいているのは「どうやって見つけたか」までの話です。

字幕が読めなくなっていた ── 原因はフォントのほうだった

字幕を描くツールに可変フォントを渡したら、いちばん細いウェイトで描かれた

字幕は、文字を画像として描いてから映像に重ねて焼いています。描くときに指定したのが可変フォントでした。可変フォントとは、細いものから太いものまでを1つのファイルに連続して収めてあるフォントのことです。

描画に使っているツールに渡したところ、収まっている中でいちばん細い状態で描かれました。細い文字に縁取りを重ねると、文字の線そのものが縁に食われます。書き出した映像を再生したら、字幕が潰れて読めない状態になっていました。

字幕の文章は台本から起こしているので、文字の中身は合っています。折り返しの位置もずれていません。直す場所は、字幕の文言ではなくフォントファイルでした。太さの決まった固定ウェイトのフォントに差し替えたら、そのまま読めています。

紙がクリームなので白抜きも使えなかった

細さで潰れるなら、白い文字に濃い縁を付ける白抜きにすればいい、と最初は考えました。使えませんでした。背景がクリーム色の紙で統一されているので、白い文字は紙の上でそのまま消えます。

落ち着いたのは逆の組み合わせで、濃い色の文字に、紙と同じクリーム色の縁を付ける形にしました。線画の上でも、黒く塗り潰した面の上でも、両方で読めます。背景の色を先に決めていたので、字幕の作り方はそこで縛られていた、という順番でした。

音が天井に張り付いていた ── 耳では気づけなかった

リミッターを0.89にしていたらmax 0.0dBになっていた

ナレーションとBGMを混ぜるとき、音が大きくなりすぎないように上限を決める処理を通しています。リミッターと呼ばれるもので、決めた高さを超えた音を押さえ込む役です。私は上限の値を0.89にしていました。

書き出したファイルを測ったら、いちばん大きいところが0.0dBでした。デジタルで音が取れる上限そのもので、上に伸びる先が残っていない状態です。書き出しや配信側で音量が少しでも持ち上がると、そこで潰れます。

耳で聴いている限り、割れても歪んでもいませんでした。ヘッドホンで通しで聴いても、気になるところがありません。測って初めて出た数字でした。

0.63+ラウドネス正規化で-3.9dBに落ちた

上限を0.63まで下げて、あわせてラウドネス正規化を通しました。全体の音量を決めた基準に合わせる処理のことで、今回は基準を-16、瞬間的な最大値の上限を-3.0にしています。測り直したら、最大が-3.9dBまで下がりました。

聴いた印象は、正直ほとんど変わりません。変わったのは数字だけです。耳が拾えるのは割れたあとの音で、割れる寸前かどうかは音になって出てこないからだと思います。

4つに共通していたこと ── 全部「工程の出口」では見つからなかった

4つを並べてみると、共通していたのは見つかった場所でした。画像は生成の直後に1枚ずつ見て通っています。字幕は文字を台本と突き合わせて合っていました。音は聴いて問題がありませんでした。それぞれの工程の出口では、4つとも合格しています。出てきたのは全部、次の工程に進んだあとか、通しで再生したときでした。

部分の検品は渡せた。通しで見る仕事は渡せなかった

1枚ずつの検品は、条件を言葉にできるので任せられます。顔が写り込んでいないか、文字が焼かれていないか、色が乗っていないか。判定の基準が1枚の中で閉じているものは、そのまま条件として渡せます。部分の検品は渡せました。通しで見る仕事は渡せませんでした。

「関係のない6枚に、同じ形が入っている」は、6枚を同時に見て初めて言えることです。1枚を見ている検査には、原理として映りません。音も同じ形をしていて、ナレーションもBGMも単体では正常なのに、混ぜた結果だけが天井に着きます。壊れていたのは、部分と部分の関係のところでした。

チェックを「機械で判定できること」に落とし直した

事故が出るたびに、目で探す検査をやめて、機械で判定できる形に書き換えています。「字幕が読めるか」は「使っているフォントが可変フォントでないこと」に、「音が割れていないか」は「最大値が-3dBを超えないこと」に、「絵が変ではないか」は「全枚数を1枚に並べて見ること」に置き換わりました。

目で探す条件は、疲れると通ります。数字と手順は疲れません。ただ、万能ではありません。今回の4つはどれも初めて見る壊れ方で、事故が起きるまで検査項目に載っていませんでした。書き足せるのは、いつも1回踏んだあとです。

渡すほど、確かめる仕事が自分の側に寄ってきた

手を動かす工程は、ほとんど渡しました。ただ、浮いた時間がそのまま空き時間になったわけではありません。出てきたものが揃っているかを見る仕事が、そのぶん前に出てきます。

しかも、渡す前より難しくなっています。自分で作っていた頃は、1枚描けばその1枚が目に入るので、作業と検品が同じ時間の中に入っていました。丸投げすると、その2つが切り離されます。手を動かす時間を通らないまま、39枚がまとめて返ってきて、そこから見る作業が始まります。

一つに抱えさせすぎると出力が濁るところは人もAIも変わらない、だから役割ごとに分けて任せている。そこまでを書いたのがAIエージェントの作り方は「分業」だった。個人が賢い1体に頼るのをやめて、チームで組む方法です。今回踏んだのは、その裏側にあたる話だと思っています。分けて任せるほど、分かれて返ってきたものを合わせて見る役が必要になります。その役だけは、まだ手元から動いていません。

渡したあとに残る手応えの薄さについては生きがいとは何か。仕事をAIに渡して分かった、働く世代のための見つけ方で触れました。1本にいくらかかったかという金額の側は動画1本の実費を明細のまま置いた記事にあります。

よくある質問

Q. 動画生成AIが苦手なことは何ですか?
A. 私が1本作った範囲で困ったのは、渡した参照画像の一部だけを真似させることと、素材どうしが揃っているかを保つことでした。1枚の絵としての出来は高いのに、39枚を並べると揃っていない、という形です。字幕も音も、その工程の中だけを見れば正しく出ていました。苦手なのは、工程をまたいで揃えることだと感じています。ただ、モデルの性能の話というより、私の頼み方が雑だっただけの可能性もあります。

Q. 動画生成AIを利用する際の注意点は?
A. 私が次から必ずやることを3つ挙げます。1つ目は、参照画像に真似てほしくない要素を入れないこと。何が写っているかが、そのまま持ち込まれる余地になります。2つ目は、書き出す前に素材を全部並べて一覧で見ること。1枚ずつでは揃っていないことに気づけません。3つ目は、音を耳ではなく数字で確かめること。私は聴いても分かりませんでした。

Q. AI動画生成の見分け方はありますか?
A. 分かりません。作っている側にいて、自分が作ったものの粗なら探せますが、他人の映像を見てAIかどうかを言い当てられるとは思っていません。手や文字の崩れが手がかりだとよく言われますが、確認の工程を1つ足すだけで減るので、手がかりとしては弱くなっていくのだと思います。ここは分からないまま置いておきます。

まとめ

8分26秒の動画を1本作って、通しで見たら4か所が壊れていました。参照画像のマークが関係のない6枚に転写されていたこと、別の参照画像の場面が背景に丸ごと写り込んでいたこと、可変フォントを渡したせいで字幕が細く描かれて読めなくなっていたこと、リミッターの値が高すぎて音の最大が0.0dBに張り付いていたこと。値を0.63に下げてラウドネス正規化を通したら-3.9dBまで落ちました。

4つに共通していたのは、原因ではなく見つかった場所です。それぞれの工程の出口では、どれも合格していました。だから私は、目で探す検査を機械で判定できる条件に書き換えて、素材は必ず一覧に並べてから書き出すようにしました。1枚ずつの検品は渡せるので、そこは渡したままにしています。並べて見る作業は、自分でやることにしました。

更新履歴

2026年9月:初版を公開しました。本文の内容は、2026年8月に8分26秒の動画を1本制作したときの実際の記録です。音の数値は、書き出したファイルを測った実測値です。転写を止めるためのプロンプトの書き方は別の記事にまとめる予定で、公開したらここからリンクします。

Ryuichi
Writer / 運営者 Ryuichi

金沢を拠点に、AI活用とこれからの暮らし方を実際に試して記録しています。

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